徳島文学協会

文学賞に挑戦

自分の書いた小説が本になる!そんなことできるはずがないと諦めていませんか。作家になるのに年齢や性別は関係ありません。小説を書いたことがなかったという方でも、いちから学び、文学賞に応募し、夢を叶えた人もいます。諦めずに書き続け、文学賞に挑戦し続けることが大切です。当協会では皆さまのチャレンジを全力でサポートしています。

受賞者からのメッセージ

銀華文学賞

第16回 銀華文学賞 最優秀賞
菊野 啓 さん

文芸思潮2024冬号 掲載 受賞作『量子の母』

菊野啓さん近影
無価値なるもの

 たった一人にも読まれない小説は無価値だと考えているので、何かひとつ作品が仕上がったら、ちょっとイマイチかなと思う出来のときでも、必ずどこかへ出すことにしている。仲間うちの合評会のこともあれば、その多くはダメもとで全国公募の文学賞へ。これで少なくとも無価値ではなくなった(笑)。しかも、読んでもらえたのは文学のプロ。選考委員の先生方はきっと怒るだろう。もっと乾坤一擲の作品を送ってこいよ、こちとらヒマじゃないんだと。すみません。ごもっともです。ですが、そんなふうにダメだと思って出した拙作が、たまに予選に引っかかったりする(むしろ自分ではダメダメだと思っていた作品の方が評価されたりする)と、それが本当にうれしくて。まるでどっちが岸かも分からない真っ暗な海をひとりで泳いでいるときに、ぴかっと一瞬、灯台の光が見えたような。それでまた当分やる気が出ます。私にとって文学賞応募というのは、そういった意味合いのものなのです。なので、今回最優秀賞受賞という望外の幸運を手にしたあとも、きっと変わることなく応募しつづけるんだろうと思います。そして、そんなことをやっているうちに、自他共に認めるスンゴイ作品を、そう長くはないこの人生が終わる前に、たったひとつでいいからモノにしたい、というのが唯一の望みでございます。そのためには文章力を鍛え、長編をやり抜く泳力を身につけながら、どうしても書かねばならぬコトを、腹の中でマグマのように煮えたぎらせ、いつでも作品にぶち込めるように用意をせねばなりません。つまり、今やっていることはすべてこれから書く傑作のための準備なのであります。それがいかなるものなのか、自分でもまったく分かりません。短編なのか長編なのか、純文学なのかエンタメなのか、SFかひょっとしたら推理小説かもしれません。それがついに完成したとき、せめて無価値では終わらせないために、懲りもせずにまた文学賞に応募することでしょう。そして、予選にでも引っかかろうものなら、大喜びして他人に自慢し、次こそは受賞じゃと鼻息を荒くして、新たな駄作に着手することでしょう。すべてはたったひとつの傑作を残すための準備なのだと嘯きながら、果てのない文学賞応募地獄をつづけていくことでしょう。われながら困ったものですが、たまには今回のようにラッキーなこともあるので、まあいいかなと思って、今日もまた駄文を紡いでおります。

徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞

第5回 阿波しらさぎ文学賞 大賞
小川 真我 さん
受賞後、徳島文学協会に入会されました

読楽2022年12月号掲載 受賞作『火取虫』

2022年9月11日授賞式にて
受賞のことば

 ずっと無口な子供でした。中学生の頃が一番酷くて、三年間教室では無言を貫き通していました。黙っていると頭の中に言葉が詰まってくるので、窒息しないように発散してやる必要があったのかもしれません。誰かと意思疎通するためではない言葉をビリヤードみたいに反響させて、飽きもせずひとりで遊んでいました。
 私が好きな本の中には、本だけでなく映画や他の芸術作品の中では、現実を我が物顔で支配している論理倫理とは別の法則が生きていて、現実に馴染めない私はそのことを確かめるためにニタニタしながら本を読み映画を観ます。見たことのない仕方で美しく飛躍している作品に出会うと激しく興奮します。書くことも今のところはその延長線上にあって、受賞作の終盤部を書いているときには眩暈がするほど楽しかったです。
 賞を頂けたおかげで、作品が人の目に触れ、様々な角度から感想を頂けたことが良い刺激になりました。自分で何を書いたのか、人伝に聞いて初めて気付かされるような部分があるということを知りました。
 声が小さくてうまく届かなかったことが発言を遠慮させるように、例えば小学生の頃、提出した作文に赤ペンで?だけ付けて返却されたことを強烈に覚えていて、理解不能を表す赤い無言の疑問符が今でも恐ろしく、そのため小説に書いたイメージを受け取ってもらえたことが純粋に嬉しかったし、安心したのでした。
 ところで、徳島に引っ越してきてから食欲が異常に亢進していて、何かおかしいと思えば、もしかするとホームシックかもしれません。見送りのときに泣いてくれた友達のことを、距離が離れるだけで大袈裟なと鼻で笑っていたのですが、ホームシックかもしれません。

徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞

第5回 阿波しらさぎ文学賞 徳島新聞賞
鎌田 航 さん
受賞後、徳島文学協会に入会されました

徳島新聞2022年8月27日紙面より

2022年9月11日授賞式にて
海で遊んだ日

 ずっと前にここに来たんです。まだ僕たちが、うんと若かった頃に、まだここが、うんと広かった頃に、琥珀の化石を探しに、風にさらわれた子供を追いかけて、なんとなくさみしくて、いつかハネムーンで、君が海を見たいと言ったときに、ここにきたんです。
 砂浜をかけていく子供たちが、途中で投げ出した映画と重なって、まだ眠そうな君は持ってきた本を枕にして横になる。海はしずかに発光していて、けれど、まばたきのあいまで元にもどる。「海が近くていいね」そう、海の匂いがする、いい所。港に住みつく人もいるみたいだよ。もう、うまく思い出せないけれど、そんな歌、君がよく歌ってた。まばたきのあいまで、すべて忘れていく。


 冬の空を見た、ジョー・マーチ、ヴァージン・スーサイズ、分かり合えないこと、機械の死体兵、遊び疲れた子供たち、“自分も他人も見返してやるぜ”、なにをしても楽しくない日、疎遠になった友達、女は愛嬌?、ユリィの絨毯、いつかの家族旅行、父親に当たってしまったこと、自殺防止フェンス、パヴェーゼ全集、瞼のうすい皮膚の下、夏毛に変わる犬、記憶の濁流、私じゃないといけない理由が欲しい、(where the light gets in)、庭で拾った宝石、叶わなかった夢のゆくえは。忘れていく、すべての、すべての美しいもの。一瞬の沈黙があって、世界中が君に注目する。───

 ずっと前にここに来たんです。まだ僕たちが、うんと若かった頃に、まだここが、うんと広かった頃に、琥珀の化石を探しに、風にさらわれた子供を追いかけて、なんとなくさみしくて、いつかハネムーンで、君が海を見たいと言ったときに、たしかに、ここにきたことがあるんです。

徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞

第5回 阿波しらさぎ文学賞 徳島新聞賞
うっかり さん

徳島新聞2022年8月28日紙面より

2022年9月11日授賞式にて
たんぽぽと待つ

たんぽぽが好きだ。春から仲夏くらいまではたんぽぽを無意識に探してしまう。見つけるとしゃがみ込んで見つめることが良くある。たんぽぽには蜂が来る。蝶も来る。もちろん風も来る。それらをたんぽぽはただ受け入れる。お邪魔でなければわたしも加えてもらい、あたかも生えているかのように佇んでいると、野原と同化した感覚になる。それはとても幸せなことで、うっとりしてしまう。この同化の体験はわたしの人生の芯といってもいい。できればこの芯により近いものを書きたい。その芯はおそらくわたしにとっての真実だ。他にも同化体験はあるが、そのような奇跡的な体験が今後もあるとは思えない。しかしあの感覚に近いものが書ければ、わたしのいのちとしての役目は終わりでいいのではないだろうか。そもそも個々人の芯を書くことは困難なことだ。それができれば明日死んでもいいように思う。逆にいうとそれまでは生きていたい。この感覚をだれかと共有したい。ずいぶん前になるが、朝日新聞の社説で工藤直子さんのあいたくてという詩が紹介されていて偶然読んだわたしは衝撃を受けた。その詩の気持ちでわたしは生きている。ぼーっと揺れるように歩き、必要な食事をとり、最低限の仕事をしながら、ずーっと待っている。相手が誰なのかは分からない。わたしが認識できないどこか遠くの読者なのかもしれない。それでもわたしは待つ。おそらくそれがわたしにとって生きるということだ。その過程で今回大変栄誉ある賞を頂けたことはとてもうれしい。いつもご指導してくださる佐々木先生を始め、徳島文学協会の仲間たち、そしてブンゲイファイトクラブの仲間たちにも感謝申し上げたい。

徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞

第4回 阿波しらさぎ文学賞 徳島新聞賞
宮月 中 さん

徳島新聞2021年8月28日紙面より

2021年9月11日授賞式にて
受賞の言葉

阿波しらさぎ文学賞は自分にとって最も思い出深い賞です。第一回で徳島文学協会賞に選ばれ、これまで仲間内に見せるだけだった小説の世界が大きく広がりました。ありがたいことに第二回でも賞をいただきましたが、そのポジションは動きませんでした。それから僕の同賞への取り組みは、受賞するかしないかの二択ではなく、自作と大賞とを隔てているものが何であるのかを問い続ける戦いとなりました。
今回、第四回では徳島新聞賞をいただきました。これを前進と呼べるのか、やはり頂点には届かず立ち止まっているのか、自分だけではなかなか判別がつきません。ただ審査員の方々から「レベルを上げている」との言葉をいただいたので、少しは上達しているのだと励まされました。
「にぎやかな村」では架空の廃村と、そこに確かに存在したはずの人々の息遣いをリアルに描き出すことを試みました。第一回から、失われた川、いつか来る災害、普段は見えない地面の境界線と、一貫して「人々が直視を避けがちな足元に目を向ける」ということを意識して創作してきました。同時に僕自身、創作の過程で自分の住んでいる土地について調べ、歩き、時に批判精神をもって見つめ直すことは存外楽しく、今では毎年の楽しみのようになっております。昨年の応募直後には「もう今回で最後かなぁ」などと思っていたのですが、そのうちいつの間にか、「次はこんなテーマにしようかな」「こんなアプローチもできるな」と考えている自分がいました。僕はもともと徳島の生まれではないのですが、賞を通して随分徳島に詳しくなったように思います。素敵なご縁をどうもありがとうございます。
余談ですが受賞後になって初めて、モデルの一つとした奥祖谷へ旅行に行きました。若い子たちがたくさん写真を撮っていて、たいへん気持ちの良いところでした。

幻冬舎 小説コンテスト

第3回 小説コンテスト 大賞
菊野 啓 さん

受賞発表が掲載されたHPと『金の顔』カバーデザイン

徳島新聞掲載の記事より
小説というじぶんごと

長いあいだ、誰にも読まれない小説をパソコンの肥やしにしてきた。それが昨年、某出版社の小さなコンテストに入賞して、『邪眼』という電子書籍を出版してもらったところ、思いのほか、あちこちから御意見を頂戴することができた。読むに堪えないという手厳しい叱責から、とても面白かったという激励まで色々で、じぶんごとでしかなかった小説がよかれ悪しかれ他人事になったのだな、とよろこぶ一方で、ちょっと怖くなったりもした。なぜ小説を書くのか? とはいつも自問することだが、これか、と思えてきた。誤解を怖れずに言うと、自分の吐いたゲロを見も知らぬ他人があれこれと品評してくれている、この快感、表現する者だけの特権ではあるまいか。とは言え、何を書くかが一大事であり、心の痛みを知る人が傷ついた人のために書くのが文学だとしたら、私の小説はその点において致命的であるかもしれない。なぜなら、告白すると私はサイコパスだからである(笑)。そして、今回また似たような経緯で、『金の顔』という小説が近く出版の運びとなった。サイコパスの書くハチャメチャなエログロ小説、あなたは読みたいですか?

『金の顔』はアマゾンで購入できます。

林芙美子文学賞

第5回 林芙美子文学賞 佳作
阿部 あみ さん

小説トリッパー2019春号(2019/3/25発行)掲載 受賞作『裏庭』

北九州市主催の授賞式と文学協会の祝賀会にて
作品への思いと推敲力

ずっと、忙しくて小説が書けない時期があり、周りの方がどんどん受賞されていくのに、自分だけ取り残されてしまったように思っていました。とにかく作品を書いて応募しないことには始まらないと思ってはいたのですが、新作を書く時間もなく、二年くらい前に書きあげた作品を推敲して、林芙美子文学賞に応募しました。
月一回、協会の文学イベントに『文芸批評会』というのがあります。主に協会のオリジナル文芸誌「徳島文學」に掲載されている方々を中心に合評会を行っています。今回の小説も二回ほど提出し、様々なご意見を頂きました。文学賞に応募するにあたり、合評会で指摘された後半部分をすべて変更。時間を経ることで自分の書きたかったことが、より濃密に、鮮明に浮かびあがってきました。その思いを作品に封じ込めるように、念じながら書き直しました。推敲というと「てにをは」や「ですます」を直す程度に考えがちですが、大胆に別の話に書き変えるくらいの勢いで直すということを心がけています。自分が書いたものを切り捨てるということは、出来難い事ですが、そうしないと良い作品にはならない、ということが今回、実感できました。
小説を書くということは、本来、孤独で苦しいことではないかと思います。私にとっては文学協会の皆さんの存在が心の支えとなり、諦めずに書き続けることができたように思います。そして「近いうちに阿部さんは受賞しますよ」と激励し、推敲に尽力して下さった佐々木会長、本当にありがとうございました。また応援し、一緒になって祝福してくださった皆さまに心より感謝いたします。

幻冬舎純文学小説コンテスト

幻冬舎純文学小説コンテスト 大賞
菊野 啓 さん

徳島新聞朝刊12月15日掲載記事より

受賞発表が掲載されたHPと電子書籍『邪眼』
電子書籍

携帯電話も持たない原始人の私が、電子書籍出版だって、人間六十年近くも生きておれば、面白おかしいこともあるもんだ。お金まで払っていったいどんな人が、どこでどんなふうに読んでくれるのだろう、そんなことを考えているとついニヤけてしまう。大賞に選んで下さった幻冬舎ルネッサンス新社の方々、本当にありがとう御座います。ささやかな夢をひとつ叶えることが出来ました。
それと日頃から懇切丁寧な御指導を戴いている、徳島文学協会の佐々木義登先生はじめ合評会メンバーの皆さん、いつも拙作をボロクソに御批評下さり、心よりお礼申し上げます。落ち込んでしばらくはパソコンの前に座る気にならないこともありましたが、おかげさまで何度も書き直す習慣がつきました。今回の受賞作もその結果として生まれた作品です。私のようにセンスも文才もない者は、脳の筋肉で書くしかありません。筋肉は使わなければすぐに衰えてしまいます。無理にでも書き続けながら、持久戦に持ち込むより外に道はないのです。いつかすごいのが書けると信じて、これからもへたくそな小説をいっぱい書いてゆきます。
そう長くはない人生で、寝食を忘れて打ち込めることを見つけられて幸せです。身体を鍛えて健康に留意しながら、せめてあと三十年はやりたいと思っています。ですので皆様、どうか応援してやって下さい。初めて出した本がたくさん売れてくれると励みになります。それで儲けた印税は、世のため人のために手弁当で頑張っている徳島文学協会に寄付させて頂きます。決して私腹を肥やしたりは致しません。ですからぜひ百万部くらいマウスをポチッとやって頂けると嬉しいです。
ただし、公序良俗に反するイカれたエログロ小説で御座いまして、眉を顰められるであろうことは寸毫の疑いもありませんが、それはこんなものを世に出した幻冬舎の方々の責任ですので、クレームは全てそちらへお願いします。ちなみに自分では電子書籍購入のやり方がいまひとつよくわかりません。専用のアプリをどうのこうのというのでめんどくさくなりました。いらちなのでインターネットは苦手なのです。やっぱり本は紙のもんですね。ではどうぞよろしくお願い申し上げます。

電子書籍『邪眼』( Kindle版 )はアマゾンで購入できます。

大阪女性文芸賞

第35回 大阪女性文芸賞
久保 訓子 さん

鐘 第30号(2018/2/25発行)掲載 受賞作 『かたわれ』

審査員の中沢けい先生と町田康先生と共に
受賞エッセイ

佐々木先生の講座を初めて受講したのは何年前だったのか忘れてしまいましたが、創作にあたっての真摯な心構えを聴いて衝撃を受けたことを忘れることができません。
ある日、やっと一作を書いて先生に見せると、「こんな悪文読んだことがない。ほら主語と述語が捩じれているでしょう、ここも、ここも。それに人物を図式化してはいけない。この背景は香川県のイルカランドでしょう、パンフレットの中に既成の人物を歩かせているだけだ」と。そして次作を持っていくと、「リアリティーも書いている人の熱情も感じられない。この手のものに一人称の語りとは」とまた。その間に藤代さんが受賞し、若い高田さんが受賞し、私に存在価値などないような気がしていました。そうして、三作目に提出したものについては、ひょっとしたら可能性があるのではないか、といってくれました。この度受賞することになった作品の元です。
しかし、これもうまく纏まらず、何度捨ててしまおうと思ったかしれないのですが、その都度先生から、「久保さん、もうこの先はないと思いなさい」といわれ、先はないという言葉の恐ろしさにだけ一年半もの間推敲に推敲を重ね続けました。最後に先生は、「これはきっといける」と初めて褒めてくれたところ、念願の大阪女性文芸賞を受賞していました。
小説を書くことは作品を認めてくれる人を探すことでもあるといいますが、書いたものを責任をもって否定してくれる人を探すことでもあるように思います。習作が褒められる域にあるなどまずあり得ないからです。信頼関係が伴います。私は佐々木先生に褒められると、髪を短く切り過ぎた時のように首のあたりがすうすうして自分ではない様です。でもつい先日提出した作品について、「哲学がない、浅い、意味がわからない、最後にオチを付けない」などとまた先生の言葉が飛んできたので、やっと心が落ち着きを取り戻して、寒風の扉を開けるような境地に戻ったものです。

三田文学新人賞

第23回 三田文学新人賞 佳作
髙田 友季子 さん

三田文學 No.129(2017年春季号)掲載 佳作 『乾き』

三田文學新人賞授賞式 青来有一先生と共に
受賞の言葉

二十代の前半、何もできない自分が嫌だった。同世代の若者たちの輝かしい活躍を目にしては苛立っていた。焦りから築き、八つ当たりの末に壊した人間関係もあった。
二十代の終わり頃から、ものを作ることでその気持ちを消化できるようになった。決して戻りたいとは思えないあの日々の中、私を創作に繋げてくれた人たちに出会えたのは幸運だったと思う。最初は小説ではなかった。けれど言葉を繋げていくうちに、物語を書きたいと思うようになっていた。
三十歳になって初めて、長い話を書いた。社会から必要とされない人たちの、底に沈んでいくような生活を描きたいと思っていた。書き直しを重ね、原稿用紙八十枚足らずの作品に一年をかけた。佐々木先生のご指導と、協会の皆さんの存在がなければこの作品はできなかった。本当に感謝したい。
投稿したことに満足していた作品は、思いがけず三田文学新人賞の最終選考に残った。振り返ると、この通知の封書を受け取った時が一番素直に嬉しく感じられたと思う。
最終的に佳作を受賞した。受賞後は皆、次の作品が大事だと言う。その通りなのだと思う。きっと私が期待するほど人は私の次作を待ってはいないし、出したところで厳しい目を向けられるだろう。世界は甘くない。けれど私が描きたいと思うのは、そのような世界で遣る瀬無い思いを抱かせる事象であり、人々なのだ。ちょうど十年ほど前の私が足掻いていた日々のように。
今はただ入り口に立っているに過ぎない。それでも以前の私がいた場所より、少しは前に進んでいるはずだ。物語る言葉が私に新たな景色を見せる。その可能性を信じて、これからも小説を書いていきたい。

三田文学新人賞

第22回 三田文学新人賞 佐伯一麦奨励賞
藤代 淑子 さん

三田文學 No.125(2016年春季号)掲載 佐伯一麦奨励賞 『あるく女』

三田文學新人賞授賞式 佐伯一麦先生と共に
出会いに感謝

昨年、幸運なことに第22回三田文学新人賞の佐伯一麦奨励賞を授賞しました。授賞式会場は有名な作家や著名な方々が多く集う華やかな場で、その方々から作品の評価をいただきました。懇親会では著名な方々が気安く声をかけてくださり、カメラにも納まって、夢のようなひと時を享受いたしました。
6年前、友人に誘われて意欲のないまま小説入門講座に参加しました。人称の使い方や構成など基本から学び、創作した初めての作品は子どもの頃の記憶が下地になっています。原稿用紙5枚がなかなか書けなくて、前途多難な道に入ったと思いました。そして書き直しの連続に、文学は才能の世界かもしれないと落ち込みました。それでも少しずつ、書くことが楽しくなってきて、教室での合評や先生の直接指導に気を取り直して書き続けました。同じ課題で書いた他の人の作品に刺激されるとモチベーションが上がります。講義で文体や文章作法とかの知識が増えましたし、自分が取り組んでいる作品に役立つ本の指導もありました。小説講座で共に学んできた人たちも腕を上げていて、受賞に近い方が何人もいます。
今、小説・創作に興味のある方にお伝えしたいことは、一人で書くことも可能ですが、できれば目指す人たちと切磋琢磨し、プロの指導を仰ぐことが上達への道だと思います。人は道を選びながら生きていく。何気なく耳にしていた言葉ですが私の心に響きます。あの日、小説講座に入ったことで文学の道に進み、希望が生まれたのです。素晴らしい可能性に向かって、徳島文学協会で一緒に学んでみませんか。

主な文学賞

文学賞は大きくわけると、純文学系とエンターテイメント(大衆小説)系に分かれます。純文学とは、言葉の表現を重要視した芸術性の高い作品。逆にエンタメと呼ばれる大衆小説はストーリーを重視し、読者に感動や痛快感を与える作品と言えます。また、文学賞には中央の出版社等が主催するものと、地方の特色を生かした作品や、在住者やゆかりのある人でないと応募ができないといった地方文学賞があります。

※賞の開催の有無、応募枚数や締切は、確定されたものではありません。
必ず公式サイトをご覧になってお確かめください。

純文学系

新潮新人賞(新潮社)
◎400字詰70枚~250枚 ◎3月末日締切
http://www.shinchosha.co.jp/prizes/shinjinsho/

文藝賞(河出書房新社)
◎400字詰100枚~400枚 ◎3月末日締切
http://www.kawade.co.jp/bungeiaward.html

すばる文学賞(集英社)
◎400字詰100枚~300枚 ◎3月末日締切
https://subaru.shueisha.co.jp/bungakusho/

文學界新人賞(文藝春秋)
◎400字詰70枚~150枚 ◎9月末日締切
https://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/bungakukai_prize.htm

群像新人文学賞(講談社)
◎400字詰70枚~250枚 ◎10月末日締切
http://gunzo.kodansha.co.jp/awards

三田文学新人賞(慶應義塾大学/三田文学会)
◎400字詰100枚まで ◎10月末日締切
http://www.mitabungaku.jp/shinjin.html

太宰治賞(筑摩書房/三鷹市)
◎400字詰50枚~300枚 ◎12月10日締切
http://www.chikumashobo.co.jp/blog/dazai/

地方文学賞

徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞(徳島新聞社/徳島文学協会)
◎400字詰15枚まで ◎6月10日締切
https://www.t-bungaku.com/shirasagi/index.html

とくしま文学賞 小説部門(徳島県/徳島県立文学書道館)
◎400字詰50枚まで ◎9月末日締切
http://www.bungakushodo.jp/

内田百閒文学賞(岡山県/岡山県郷土文化財団)
◎400字詰20枚~50枚 ◎5月末日締切
https://o-bunka.or.jp/aword.html

坊っちゃん文学賞 ショートショート(松山市/坊っちゃん文学賞実行委員会)
◎4000字以内 ◎9月末日締切
https://bocchan-shortshort-matsuyama.jp/

仙台短編文学賞(仙台市/仙台短編文学賞実行委員会)
◎400字詰25枚~35枚 ◎11月中旬締切
https://sendaitanpenbungak.wixsite.com/award

さきがけ文学賞(公益財団法人さきがけ文学賞渡辺喜恵子基金)
◎400字詰100枚~150枚 ◎6月末日締切
https://www.sakigake.jp/bungaku/

林芙美子文学賞(北九州市/北九州市立文学館)
◎400字詰70枚~120枚 ◎9月中旬締切
http://www.kitakyushucity-bungakukan.jp/award_cat/hayashi/

やまなし文学賞 小説部門(やまなし文学賞実行委員会)
◎400字詰80枚~120枚 ◎11月末日締切
https://www.bungakukan.pref.yamanashi.jp/prize/

エンターテイメント系

創元 SF 短編賞(東京創元社)
◎40字×40行換算10枚~25枚 ◎1月初旬締切
http://www.tsogen.co.jp/award/sfss/9th/#awardKitei

小説現代長編新人賞(講談社)
◎400字詰250枚~500枚 ◎1月末日締切
http://shousetsu-gendai.kodansha.co.jp/prize/

新潮エンターテインメント大賞(新潮社/フジテレビ) 
◎400字詰250枚~400枚 ◎2月末日締切
http://www.shinchosha.co.jp/prizes/entertainment/

小説すばる新人賞(集英社)
◎400字詰200枚~500枚 ◎3月末日締切
http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/award/

オール讀物新人賞(文藝春秋)
◎400字詰50枚~100枚 ◎6月中旬締切
https://www.bunshun.co.jp/mag/ooruyomimono/ooruyomimono_prize.htm

ポプラ社小説新人賞(ポプラ社)
◎400字詰200枚~500枚 ◎6月末日締切
http://www.poplar.co.jp/award/award1/index.html

小説野性時代新人賞
◎400字詰200枚~400枚 ◎8月末日締切
https://awards.kadobun.jp/yaseijidai/

女による女のための R-18 文学賞(新潮社)
◎400字詰30枚~50枚 ◎10月末日締切
http://www.shinchosha.co.jp/r18/guide.html

TOPへ